「コロナ禍での新入社員の苦悩」

 新型コロナウィルス感染症の拡大防止策であるテレワーク(在宅勤務など)の導入が広まる中、他社員と直接会う機会を失い、会社に馴染めずに苦悩する新入社員は少なくありません。

 

 一般的にテレワーク導入のメリット・デメリットは、次のように報じられています。

 従業員側のメリットは、⑴自由時間が増える、⑵仕事に集中できる、⑶ストレスが減る、⑷住む場所を選ばない、⑸仕事と家事の両立が可能となる、ことです。一方、デメリットは、⑴コミュニケーションが取りづらい、⑵自己管理が難しい、⑶IT端末を使った仕事に限られる、⑷運動不足になる、⑸正当な評価がされない不安がある、などです。

 

 ところで、新入社員はどのように感じているのでしょうか。

 

 今年4月にIT系A社に入社した新人Bは、日頃からSNSを使い、在宅で一日中PCやタブレットに向き合うテレワークに抵抗を感じません。

 

 入社後6カ月間は、在宅でのZoomやビデオによる自主研修に取り組みました。職場の人間関係や取引先の商談など、対面でのわずらわしい人間関係もありません。始業と終業の勤務時間の報告と定例ミーティング以外は自由に働けるので、緊張感や息苦しさもなく、メリットは大きいと感じていました。

 

 配属が決まった10月以降も、チームマネージャーと週1回各30分、指導員の先輩と週数回の個別リモートミーティングを行っており、来春まで定期健康診断の受診以外の出社予定はありません。主業務は、各リモートミーティングに出席し議事録を取ることです。

 

 ところが、基礎知識が足らず専門用語を理解出来ないため、参加メンバーの業務内容や役割分担を把握が十分にできません。また、リモート会議では参加者の顔が表示されないため、発言者の氏名と音声が一致しません。結果、回覧できるレベルの議事録完成に至らず、チームに貢献できずに自信を喪失しています。

 

 コロナ以前であれば、隣席の先輩にその場で質問し理解できる疑問点も、先輩とのリモートミーティングまで待たざるを得ず、尋ねそこない解決に至りません。また、リモート飲み会に参加しても、話の流れに馴染めず、個々の先輩の生きた情報を引出すタイミングにも恵まれません。

 

 チームマネージャーから業務指示を受けるまでの手待ち時間が多く、孤独感や疎外感を感じています。ついつい勤務中にネットショッピングをするなど、勤務姿勢にも問題が生じています。

 

 新入社員の将来への不安や課題については、次の3つが考えられます。

 ⑴自身の成長イメージが描きづらいこと。

  コロナ禍では、緊急性の高い業務が優先されるため、新入社員の育成は後手に回り孤立している。先輩

  が活躍する姿を間近で見ることが出来ないため、3年~5年後の自分の姿を思い描くことが難しい。

⑵ 自身の役割や周囲からの期待値が見えないこと。

  出勤時であれば、誰が、何処で、何を、どのように進めて成果に結びついているのかを体感できるため、

  仕事の全体像がつかめる。しかし、リモートワークでは、社員同士の接点や情報の伝達が少ないために、

  指示を受けた業務が会社の中でどのような意味を持ち、成果に繋がるのか実感できない。

⑶上司や同僚からのサポートが受けづらいこと。

  通常の出社時のような何気ない上司や同僚と雑談が減少し、人間関係の範囲が限定される。

  気軽な相談相手や雑談できる仲間が傍にいないことで、孤立感も高まる。

 

 以上の環境からストレスが増加しているのです。

 

 

 一方で、テレワークの企業側メリットとして、⑴離職率が下がる、⑵企業イメージが向上する、⑶リスクの分散ができる、⑷通勤費などのコスト削減ができる、⑸生産性が上がる、が強調され過ぎているように感じます。企業は、コロナ感染防止策であり次世代の働き方であるテレワークのメリットを鵜呑みにするだけでなく、将来を担う新入社に対しては、孤立させず、モチベーションを上げるための工夫に気を配る必要がありそうです。

 

第一法規『CaseAdvice労働保険Navi 202012月号』拙著コラムより転載