東京都の最低賃金は、2002年708円、2022年1,072円と、この20年間で364円・51.4%上昇し、パート時給も上がっています。
一方で、共働き世帯の増加や厚生年金の加入対象枠の拡大により扶養されている第3号被保険者数は、2003年3月末時点で1,109万人、2021年3月末時点で763万人であり、18年間で▲346万人(31.2%減少)しています。
このような状況下でも、被扶養者の枠の中で働き続けようと考えるパート従業員は少なくありません。ただし、被扶養者の枠内で働くためには、所得税・社会保険、それぞれに基準があります。
(1)年収103万円まで、所得税がかからない
(2)従業員数101人以上の企業では、年収106万円以上等の条件で社会保険加入
(3)年収130万円以上で、社会保険加入
(4)年収150万円以下であれば、所得税法上、配偶者(多くの場合は夫)の収入から配偶者特
別控除38万円の適用が可能
特に扶養の範囲内で働く従業員が意識しているのは、(1)103万円「税金」の壁と(3)130万円「社会保険」の壁です。(2)については、2024年10月から従業員51人以上の企業に適用範囲が拡がります。
医療法人A社(従業員30名)の事例です。A社では数年前より年末になると、従業員が103万円の年収調整に入るためシフトに穴が開き、経営者家族で穴埋めする状態が続き疲弊していました。
年末のみ働いてくれる短期パートや派遣社員で補おうにも、都合の良い働き方をしてくれる人材など存在しません。共働き世帯の増加など女性を取り巻く労働環境が大きく変わり、被扶養者数を増やす政策が実施されるとは考えにくい状況です。
ところが、A社のパート従業員は「扶養の範囲内で働きたい。税金や社会保険料が引かれると手取り額が減り損をする」と考えています。これでは年末の人手不足が解消されないため、パート従業員を集め、扶養範囲内で働き続けることのリスクを説明しました。
⑴ 物価上昇が続き、103万円の実質価値が減り続けることが想定されること
…総務省による消費者物価上昇率は、前年同月比4.3%上昇(2023年1月現在)とされ、103万円の実質価値が今後も目減を続けることが想定される
⑵ 配偶者が大手企業勤務としても現労働条件で定年まで勤められるとは限らないこと
…著名な実業家らの「45歳定年説」「終身雇用を維持できない」との発言より、中高年層の失業や大幅な減給のリスクがある
⑶ 扶養する側の退職金が減少傾向にあること
…大卒定年の場合、退職金の平均額は1,788万円(2018年厚生労働省調査・45歳以上・勤続20年以上)となり、15年前より約▲700万円となり、転職市場の活性化や終身雇用制度が見直されていることより、減少が続くと予測される
家族と相談の上、労働時間を増やしたいパート従業員は申し出るように伝えました。後日、数名のパート従業員より、「取り敢えず130万まで働きたい」「社会保険に加入してフルタイムで働きたい」との申し出があり、年末のシフト不足は解消されました。
ウクライナ紛争や地球温暖化による食糧不足、コロナ収束傾向による需要拡大の影響で今後も物価の上昇が見込まれます。また、金利の上昇傾向による住宅ローン返済額の増加や老後資金への不安など、今後の生活は万全とは言えません。
社会情勢を踏まえマクロ視点で自身の置かれた状況を、現パート従業員に知ってもらうことで、扶養範囲にこだわらない働き方が選べることを伝えてみてはいかがでしょうか。