副業の実態

 テレワークが普及し、労働環境は大きく変化しました。AI化により70%の職業が消滅すると予想され、将来への不安が一層高まる中、副業を検討する労働者は増加傾向にあります。

 

厚労省は、2019年に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定(2022年に改定)し、副業の労働者側のメリットを次のように記しています。

 

➀スキルを磨け経験を積める、②本業の安定収入を生かし自己実現を追求できる、③増収、④起業・転職に向けた準備ができる―。企業側のメリットは、➀従業員が自社では得られない知識やスキルが身につけてくる、②人材が獲得でき流失が防止できる、③知識・情報や人脈が獲得でき事業機会の拡大につながる―とされ、これらは地方創生にも資すると国は捉えています。

 

実態調査(20228月、「doda」実施)では、副業の実施者は8.2%、検討中が18.4%となり、大多数の労働者は副業を行っていません。また、得られる副業収入は、約51千円/月で、20代で約35千円/月、40代以上で65千円/月と、年齢の上昇に伴って増額していますが、まだまだ少額です。

 

職種では、サービス業(接客・販売)が20.8%、株・FX19.4%、ネットビジネスが11.4%の順となり、接客・販売は慢性的な人手不足により取り組み易いこと、株とネットビジネスはネット環境さえあれば始められる気軽さが影響しています。

 

一方で、勤務先の副業許可の状況を見ると、禁止している企業は49.8%、容認している企業は25.3%、残りは不明です。特に、禁止割合の高い業種は、金融機関で63.7%に及び、情報漏洩のリスクを伴うためだと考えられます。

 

容認割合の高い業種は、「旅行・宿泊・レジャー」が38.5%、「IT・通信」で36.8%と続きます。「旅行・宿泊・レジャー」はコロナ禍の行動制限による業界全体の売上減に伴う給与減少が影響しています。副業の割合はまだ少ないものの、国が後押ししており、企業の容認の流れは広がっていくことでしょう。

 

 製造業A社に勤める現場管理職B男(35歳)は、休みの日に同一業種でアルバイトを始めました。コロナ禍で共稼ぎの配偶者の収入が激減し、住宅ローンや教育費の負担を補うためです。A社では、同業種以外の副業を就業規則で認めています。A社での所定労働時間は35時間/週と短いのですが、副業先での所定労働時間を合算すると週40時間の法定労働時間を超えてしまいます。そこでA社に黙ってアルバイトを続けました。

 

 半年後、疲れ切った様子のB男は、有給消化を加速させ、業務でミスを起こすことが続きました。このような状況から、許可を取らずに兼業していたことがA社にばれました。土・日はフルタイムで働いたので過労状態になっていました。

 

 A男の問題点は、次の通りです。➀A社へ届出を行っていなかったこと、②同業種での副業禁止に違反していたこと、③両社の所定労働時間を合わせると法定労働時間を超えていたこと。

 

 会社にとっては、業務効率が落ちるばかりか、一旦、労災事故が起きると安全配慮義務違反が問われるなど責任を負わなくてはなりません。労働者の立場では、過労により誠実労働義務を果たせなくなるリスクを伴います。

 

 

副業は、会社側は労働時間の実態把握が難しく、労働者側は副業先での労働時間管理は自己申告となるため、オーバーワークになりがちです。実際に、副業をしている労働者からは、「プライベートの時間がなくなる」「心身の疲労が大きい」などのデメリットがあるというアンケート結果も出ています。本業と副業、プライベートの時間のバランスを取って健全に働き続けるためには、労使双方において過剰労働にならないように配慮を怠らないことが大切です。

 

第一法規『CaseAdvice労働保険Navi 202310月号』拙著コラムより転載