『社員が離れていく会社とは』

近年、「社員が定着せず優秀な社員から辞めていく。どうしたら定着してもらえるかを知りたい」と社長や幹部社員から相談を受けるケースが増加しています。

 

各就職サイトの調査では、離職の原因は人間関係・やりがい・待遇への不満と示しています。労使間の現場での実態から鑑みると、社長と幹部社員(以下、経営陣という)の行動に原因があると考えています。

 

問題点は5項目に集約されます。

➀ビジョンを示さない、②毎週接待ゴルフ・親睦旅行と会社を留守にし、社員に仕事を任せきりにしている、③短期的な成果ばかりを評価し、結果が現れにくい業務プロセスを評価しない、④感謝の気持ちを伝えない、⑤成功体験を押し付ける―。

 

 会社規模が小さい会社ほど、経営陣の行動が社員に把握されやすく、これらの問題がクローズアップされます。具体的な解決策として、経営陣には次のような心構えが必要です。

➀に関しては、そもそもビジョンが無かったり、あったとしても社長の頭の中にあるだけで、言語化できていないため社員に伝えられません。先行き不透明な現代ですので、長期ビジョンは重要ではありません。まずは5年後の数値目標と企業の到達点を言語化・見える化して社員に伝えることが、モチベーション維持のために避けられません。

②は、接待等が自社にとって重要な営業活動であり、かつ業績に繋がっている旨を示すことです。「社員もきっと分かってくれるだろう」といった思い込みは捨て、立場の違いにより物事の捉え方が違う具体的に伝えることが必要です。また、留守中に社員へ業務を指示するだけでなく、途中経過を確認し、問題点がある場合には共に解決策を考え、社員が孤立せずに課題が解決できるようにフォローすることが肝要です。お互いの立場の違いを理解しようとする努力と姿勢が肝要です。

③は、営業部門のように成果を数値化しやすいものは誰もが納得できますが、間接部門(総務・人事・経理など)のように、数値化しにくい部門に関しては、取組み状況(プロセス)を評価するために、現場に足を運び、進捗状況を把握しようとする行動が必要です。

④は、社員に対し「ありがとう」の言葉がけが明らかに少ないと感じます。社員一人一人が企業の業績を支えてくれていることを理解できれば、おのずと感謝の気持ちが言葉として表れます。経営陣は、利益の根幹を生むのは、お客様に直に接している社員であることを肝に銘じなくてはなりません。

⑤は、特に成功体験が多く自ら道を切り開いてきた経営陣が、陥る傾向です。自分には達成出来たことを部下が出来ない現実を受け入れられません。社員の特性はそれぞれで、得手不得手には個人差があります。多様な人材が存在するメリットは、会社として偏った方向に進まず、一定の成果に繋がることです。これを理解し、個々の特性に合わせた業務の割り振りが重要です。

 

 

 このように社員の定着には、まずは経営陣の意識変革が優先されます。次に、社員が定着し、自社で活躍し続けてもらうためには、経営陣が社員の憧れの存在であり続けることがポイントです。社員は、経営陣の振る舞いをつぶさに観察しています。経営陣の行動や発言には大きな責任が伴うことを自覚しなくてはなりません。

 

 社員に継続して力を発揮してもらうためには、社員以上に経営陣が成長を続け、常に社員の憧れの存在・目標となる人物になる努力を続けることで、社員に夢を与える存在となることです。

 

第一法規『CaseAdvice労働保険Navi 2024年6月号』拙著コラムより転載