【中高年社員の育成】

介護業A社長から、雇用した50歳の管理職候補の社員B男と、他社員のコミュニケーションが上手くいっていないので解決策を提案してほしい、と依頼がありました。

 

B男は、過去、家業を引き継ぎ経営していた経験もあり、いずれ社長は同じ経営者目線で対話できる管理職になれるものと期待を寄せていました。しかし、見込みとは違い、社長の右腕と呼べるレベルにありませんでした。

 

その後、B男との面談を行いました。第一印象は礼儀正しく実直で好印象、中小企業の社長が採用を即決した理由に納得しました。ただ、本人に改善すべき点をたずねると、次のような話がでてきました。

 

自信のなさから虚勢を張ってしまうこと、他人の発言に何か意見しなくてはと気負いすぎ的外れな発言をしてしまうこと、自分の話が多く人の話を聞いていないことなど、事前に他社員から後日、社長は早々にB男とのon1ミーティングを開始しました。

 

効果は徐々に表れました。B男は自身のプライドを捨て、分からないことは他社員に頭を下げて質問し解決策を導き出そうと必死でした。しばらくすると、表情も明るくなり、他社員とも積極的にコミュニケーションを図るばかりか、冗談も言い合えるくらいに周囲に溶け込んでいます。

 

A社では、人手不足が慢性化し、管理職も現場作業に追われ、マネジメント術を学ぶ以前に、信頼される人になるための振る舞いも身につけられていない状況です。これを機に社長は、管理職層のテコ入れを図るべく、隙間時間を見つけては1on1ミーティングを続けています。

 

聞き取っていた状況とおおむね一致しています。

B男がA社を含む実社会で生き残るためには、良好な対人関係を築く基本でもありますが、次のような心構えで向き合うことが大切となります。①プライドを捨て素直に自分の現状や評価を把握すること、②自ら挨拶をする、約束を守る、人の話を最後まで聴く、といった信頼を得るための行動を実践すること、③できることとできないことを見極め、できないことは自ら習得するか、できる社員に引き継ぐこと――。

 

JMAM管理職実態調査2018(n=566)では、「管理職になりたくない」と回答した一般職は約3/4に達しています。2023年エン・ジャパンの「管理職への意向」調査では理由として、時間の負担が重い、責任を負いたくない、管理能力に自信がない、業務に報酬が釣り合わない―、となっています。さらに、現役管理職に行った調査では、約1/4が管理職を続けたくないと考えています。若手以外にも、次の事情により管理職希望の中高年の育成も喫緊の課題となっています。

 

2023年の新生児出生数は、過去最低の約73万人です。ピーク時(1949年)の約270万人の約1/4に過ぎません。若年層が激減する中、企業では人を惹きつける魅力ある中高年管理職層の育成が欠かせません。ところが、特に中小企業の場合は、人手不足により自身の業務に追われ、他社員を気遣う余裕なしというのが実情です。時間の調整を行いやすい社長や幹部社員自らが現場に降り、管理職育成のための先頭に立って指導教育を行う姿勢が求められています。

 

第一法規『CaseAdvice労働保険Navi 202410月号』拙著コラムより転載