【退職代行会社を通じた退職から考えられること】

介護業A社長からの相談です。

退職代行業者から、社員B子(25歳)が退職を希望していると電話がありました。社長はB子を1年前に採用し、外部研修に参加させるなど育成への投資を続けてきました。人手が足りないこの時期に、B子から直にではなく代行会社から退職の連絡があるなど、納得できません。

 

代行会社と聞いただけで、嫌悪感を示す経営者は少なくありません。ベテラン経営者には、「退職時には本人が退職届を持参し直に退職の意思を告げるもの」との認識が強く残っています。

 

一方で、特にZ世代は、スマホ文化の浸透とコロナ禍で他人との接触を避ける3年間を経たことにより、直交渉が苦手で、代行会社の利用に抵抗がありません。双方の認識の違いからトラブルに発展しがちです。

 

ところで、代行会社に依頼する退職者を安易に問題社員扱いしてよいのでしょうか。会社側が考えなくてはならないのは、代行会社を利用された原因です。利用代金は、代行専門会社で約2.5万円、弁護士事務所で約5万円となり、利用の大半を占める若手にとって決して安価とは言えません。

 

そこまで追い込んだ責任が会社側になかったのかを省みることが大切です。上司にハラスメント気質がないか、退職を妨害していないかなど、職場の風土そのものに問題がないか疑ってみる必要があります。

 

「業界気質だから仕方がない」などと釈明するのではなく、問題点があれば経営陣自らが指揮を執り、対策を打たなくては、同じ轍を踏むこととなります。代行会社の利用の善し悪しよりも、社内風土が人材の流失に繋がっている可能性がないかを検証することが重要です。

 

 A社を調査したところ、人材不足により仕事に忙殺されることで社員が苛立ち、ハラスメント気質が強く現れていました。この結果、退職時に嫌がらせが横行していたことが判明しました。そこで、苛立ちや怒りを感じた時には、例えばコーヒーを買いに行き一呼吸を置いて部下に対応するなど、冷静さを保つための工夫を行う風土づくりに取り組んでいます。

 

会社側には不評である代行会社の利用ですが、メリットも存在します。

 

一つは、貸与品の返却がスムーズに行えることです。退職者が出ると、貸与備品の制服やPCや携帯端末、健康保険証など返還されずに引っ越してしまい、音信不通となることも少なくありません。

 

二つめは、退職時の引継ぎ対応がスムーズに行われる点です。退職日が決まった社員は、既に気持ちが転職先にあるため、引継ぎが疎かになることがあります。特に困るのは、貸与端末内に設定されたパスワードが解らなくなることです。

 

いずれも代行会社が間に入ることで退職者が指導を受け、解決されています。また、退職書面(退職届等)も就業規則に則り提出される為、退職が撤回されるような事態も避けられるなど、会社側にとっては手間が省けることを理解しましょう。

 

 

 このように、退職者の代行会社利用は必ずしもネガティブなものではなく、会社側に問題点がなかったのか見極め、問題があれば社内風土を見直す機会と捉えることができます。

 

 まずは、経営陣から始め、次に管理職層、そして一般社員へと、各層の問題点への気づきのきっかけづくりとして、外部研修の参加なども有効でしょう。代行会社の仲介を機に、労使双方にとって働きやすい環境づくりに着手出来れば、将来的な人材流失の防止につながります。

 

第一法規『CaseAdvice労働保険Navi 2024年7月号』拙著コラムより転載