中小企業では、人材紹介会社と契約しても応募は中高年ばかりと聞きます。採用したい20代・30代の反応がないため採用計画が進まず困っている、と相談を受けるケースが増えています。
総務省の発表では、2023年の新生児は約73万人、2024年1月1日現在の18歳人口は約106万人・60歳人口は約150万人と、高齢化は急速に進んでいます。このような状況下で、中高年の応募を困った事態と捉え、採用に二の足を踏み続けることは得策なのでしょうか。
ある日、大手企業で定年を迎えたB男(60)が、再雇用制度を断り、中小企業A社に応募してきました。A社では次世代を担う若手の補充が急務であり、B男は年齢的に欲しい人材ではありませんでした。ただ、社長が面談してみると、物腰が柔らかい中にもチャレンジ精神のある人物だと感じられたため、採用してみることにしました。試用期間を6カ月に設定したところ、早々にB男を見くびっていたと反省させられました。
B男は、社長の取引先との会話から得た情報を取り纏め「お役に立てれば」と控え目に資料を差し出す、遅れがちな会社ホームページの更新を行うなど、目立たない仕事にも自発的に取り組み会社に貢献し続けています。社長は、「ここまで気付きのある社員には初めて出会った」と驚き喜んでいます。
中高年採用のメリットを整理します。
➀労働力不足の解消…2025年の生産年齢人口予測は約7,200万人ですが、2026年~2040年の15年間にこの人口は約1,200万人減少すると見込まれ、中高年層の活用は必須です。
②豊富な知識と経験…専門知識や顧客対応、トラブル処理など経験により培われた実績は若手の手本となり会社の財産となります。
③労働意識が高い…モチベーションが高く行動力のある人も少なくありません。責任感や倫理観も持ち合わせており職場のお手本となることも期待されます。また、長年の経験からマクロとミクロの視点切替えがうまく、多角的な検討のしかたに優れている人もいます。採用後は、会社側が体調を気遣うことで、長く安定して働いてもらうことも可能となります。
一方で、中高年採用の失敗例は少なからずあり、注意が必要です。求職者の中には、前職で消耗しきっていたり、新たな会社でどんな仕事を提供できるかの自己分析が足りず、結果、環境に順応できないケースもあります。
具体的には、前職での慣習で業務を進めようとし周囲との間に軋轢を生じたり、経験を買われ好待遇で採用されたにも関わらず結果が出せない、前職の大手では分業制だったが中小企業では自己完結が求められるため対応できない――、などです。
人手不足を補うつもりの採用でも、中高年の採用には、次のような効果が得られることがあります。➀豊富な経験から得られる勘により、起こりうるチャンスやリスクを先読みし、先手を打つことができる ②意識の高い人材は学び続けており、会社にとって有益な情報を提供しようとする姿勢がある ③長い人生経験から周囲の役に立ちたい気持ちが強く、相手の状況を察した発言や助言ができるので、上層部や若手社員の相談相手・意見の調整役となれる――。
成熟した人格のB男が入社したことによる他の社員への影響は大きく、A社では職場モラルが良くなったと聞いています。中高年採用は、負のイメージばかりではありません。