【多様化するハラスメントへの対応】

【事例】A社(製造業、社員100名)で起きたパワハラ騒動の事例です。

 人事の担当役員Bに、C部長がD係長にハラスメント行為を行っていると通報がありました。C部長は落ち着いた声で、「この件をどう思っているの?」「どう決着させるつもり?」「そもそも仕事のやり方がおかしいんじゃないの?」と、毎日、1時間以上にわたりD係長を責め続けていました。それも、周囲の社員にわざと聞こえるように言うのです。D係長は、メンタルクリニックへ通うほどに追い詰められていました。

 

 C部長は以前、机をたたく、大声で罵倒する、長時間立たせるといった従来型のパワハラ問題で譴責(けんせき)処分を受け、外部研修に送り込まれた前歴があります。この時、「濡れ衣を着せられた」とぼやくのを聞いた社員が何人かいました。処分後、しばらくは大人しくしていましたが、くどくど・ネチネチ責めるというハラスメントを始めたのです。

 

C部長は、役員から部下への態度を改善するよう促されました。しかし、「怒鳴ってもいないですし、部下を思っての指導です」と反論し、加害者である認識が乏しいことが明らかとなりました。事態が好転する兆しはみえません。

 

【問題点】厚生労働省が定めるパワハラの定義は、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの、としています。

 

C部長の一番の問題点は、潜在的なパワハラ気質であるにもかかわらず、部下を思いやって指導しているという自己正当性が高く、加害者意識が薄いことです。「濡れ衣」と本人が話していたことからわかるように、まるで冤罪で懲戒処分を受けたかのように理解していました。

 

【解決策】社長を含め幹部社員で話し合い、次のように制度を変更することにしました。①ハラスメントの実態に即し就業規則(服務規律)に明記する、②「注意・指導を行う場合は15分以内にする」などと制限時間を設ける、③被害者を早期に救済するため「ハラスメント窓口」の担当者への再教育と全社員への周知を徹底し、窓口が形骸化しないようブラッシュアップし続ける――。

 

C部長に対しては、2度目の懲戒処分を科し、泊り込みの外部研修に参加させることにしました。

 

【まとめ】対策は打ちましたが、C部長自身がハラスメント体質から脱却できるかどうかは、本人の意識次第です。潜在的なパワハラ気質があるC部長には、部下を親身に指導しているという歪んだ認識があります。

 

 自己の行いが加害行為である、と正しく理解できるよう導けるかがポイントですが、このハードルはとても高そうです。そこで、次の一手としては、C部長が師と仰ぐ会長から諭してもらうことが有効かもしれません。

 

今後、ハラスメントの被害を抑えるには、面談、アンケートや外部研修を通じて全社員の意識付けを怠らないことが肝要です。

 

 

 

第一法規『CaseAdvice労働保険Navi 20251月号』拙著コラムより転載